絵を描いていると「美しい」ってなんだろう?と思う。
「美しい」という表現が適切か分からないけど、とりあえず色を選ぶ、線を選ぶ時、指針が欲しくなるのは確かだ。
そこは青く塗るのと赤く塗るのとどちらが美しいか? どのくらいの大きさが美しいか?
いつも手探りだ。
例えば夕日を写真で撮ろうとする。夕日ってのはたいてい「美しい」ものだ。
だけどシャッターを押した時「決まった!!」と思える時がある。
山のシルエット、雲のかかり方などが微妙に響きあった時。あれは数多くの美しい夕日の写真の中でもさらに「美しさ」が増したってことだろうか?
そう思うと「美しい」って食べ物の「おいしい」と似てるように思えてくる。
料理も、スパイスや食感やさまざまなバランスが響きあって「おいしさ」を増す。
味が決まった時も色が決まった時も頭の中では同じ「パチッ」とパズルが完成したような音が聞こえる気がする。
さらに人や地域によって好みが分かれる「おいしさ」だけど、一方で世界中に通用する基準があって、その多様性と普遍性の両方を持つあたりも、「美しさ」と似ている気がする。
「美しい」も「おいしい」もきっと人間がよりよく「生きる」ことに深く根差してるんだろう。
頭で考えた結果でなく、体の奥から「決まった!!」と声がする絵が描けたらキモチいいだろうな。
中日新聞 夕刊 2020.6.1 掲載