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日本×画展 しょく発する6人
開催日時 2006.07.15 - 09.20
カテゴリー  展覧会(グループ展)
場所 横浜美術館
主催 横浜美術館
墨絵インスタレーション『オレの王国、こんなにデカイよ。』を描きおろし。美術館の、天井が高い部屋一面に墨絵が描かれた。
この『日本×画展 しょく発する6人』展は、江戸時代以前の伝統的な絵画から明治・大正期の「日本画」へと受けつがれていった美意識や主題・技法のうち、現代の「日本画」が捨てさっていったもの、見失ったものに、新たな価値や創作の手がかりを見出し制作にとり組んでいるアーティストを紹介する、という企画。
出品作家は、しりあがり寿・小瀬村真美・中上清・中村ケンゴ・藤井雷・松井冬子の6名。いろんな分野からのアーティストは20歳から50歳代と世代もさまざま。そんなさまざまな作家が、横浜美術館が所蔵する近代「日本画」のなかから数点の作品を選び、それらと自作を関連づけた展示を試みた。「日本画」をしょく発する6つの個性が切り開く、新たなアートの世界を垣間見られるものとなった。
しりあがり寿が選んだ「日本画」は、絵巻物『土蜘蛛草紙』(今村紫紅 1898-99年 作品)。なぜこれを選んだのか?「ツチグモってさ、なんかカッコイイじゃない。描きたかったんだよね。」とサラリ。「絵巻物は、昔で言ったらまさに“漫画”。何百年も前の先輩に敬意を表して描いてみました。」とも。そんな土蜘蛛をテーマに、しりあがり寿は部屋一面の墨絵を9日間にわたって描いた。

部屋一面の墨絵インスタレーションは、ASK?art space kimuraの初展示から数えて3作目にあたるが、こんなに大きい会場は初めて。特に天井は抜けるように高く、到底脚立では間に合わない。工事現場のような4階建ての足場が室内に組まれ、命綱をつけ、ヘルメット姿で墨汁をかついで登り、万一のための保険をかけての大掛かりな制作となった。
会場が大きければ、筆も大きいものが必要となる。そこでしりあがり寿が使用したのが、ほうき。バットに注いだ墨汁にイグサのほうきをドブンとつけ、ひとふり、またひとふり…、と白い空間に“ヨゴシ”が入ってゆく。足場の上部に立って“ヨゴシ”を入れれば、下にはボタボタッと墨の雨。しりあがり寿も下にいるスタッフも墨まみれになって制作が進んだ。
描く順番としては、まず足場の最上部から。順に下の方へ降りてゆき、最後に床となる。足場の移動も工事現場さながら、スタッフ数人で息を合わせての移動となった。
「人間の体(スケール)の限界を感じる」と制作中にしりあがり寿が漏らす。届いて欲しいところに、筆が届かないのだと言う。それほど美術館の空間は大きかった。

美術館の空間は、ただ紙を四角四面に貼ったのではなく、変化を持たせるように床からコブが張り出していたり、角を浮かせてあったりする。作品は、その変化を利用して、大胆に、時に繊細に縦横無尽に描かれた。しりあがり寿のマンガではおなじみのキャラクター、弥次さん喜多さんや流星課長、薮内笹子なども目に入る。さらに画面の中を探すと、しりあがり寿の描いたツチグモが、5〜6匹は隠れている。一番大きく描かれたしりあがり寿の“ツチグモ”の下に、絵巻物『土蜘蛛草紙』がガラスケースに陳列され、新旧ツチグモのコラボレーション展示となった。

描きあげた墨絵の床には、白くペイントされた回廊が敷かれ、空間をより清々しいものにしている。制作の最後には、観客のための出入り口が開けられた。一旦紙を閉じて墨絵の描かれた部分が、しりあがり寿自らの手でビリビリと引き裂かれ、そこはあたかも洞窟の入り口のような神秘的なムードを醸し出していた。

「小さいコマに絵を描くというような、いろんな制限のあるマンガの仕事じゃなく、そんな制約から解き放たれた、どこまでも大きく、ストーリーもオチも何も考えない絵を描いてみたかった。」
「そもそも“絵”とは何かを問いたかった。」
と、しりあがり寿。この展覧会をきっかけに「また大きい作品を描きたい」と語った。
(written by Akiyama m.)

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動画/撮影・編集:あきやまみみこ
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